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交通事故で遷延性意識障害(せんえんせい・いしきしょうがい)になってしまったら、何をどうすればいいですか?

岐阜の弁護士杉島健二が、大切なご家族が交通事故で遷延性意識障害になってしまった場合、損害賠償その他について、何をどのように進めていけばよいか、わかりやすく解説します。

目次

1 遷延性意識障害とは、何ですか?

 遷延性意識障害とは、わかりやすく言うと、脳の損傷により自らの意思で動いたり、話しをしたりすることができない状態を言います。 

 生きてはいるものの、動いたり話をしたりできないので植物のようであるとして、「植物状態」という呼ばれ方をしていた時期はありますが、このような表現は人格的尊厳を傷つけるともいえるので、最近はこの表な表現は使われなくなりつつあります。

 1972年の日本脳神経学会による定義では、

① 自力移動が不可能である。

② 自力摂食が不可能である。

③ 屎尿失禁状態にある。

④ 声を出しても意味のある発語が不可能である。

⑤ 簡単な命令(眼を開く、手を握るなど)にはかろうじて応じることもあるが、それ以上の意思疎通は不可能である。

⑥ 眼球はかろうじて物を追っても認識は出来ない。

という状態が、治療にもかかわらず3か月以上続いた状態を遷延性意識障害とみなすとされています。

 遷延性意識障害と似たようなものとして脳死がありますが、遷延性意識障害と脳死は違う概念(症状)です。

 脳死は、呼吸、心拍、血圧、意識、睡眠・覚醒、嚥下、姿勢など、生命維持に不可欠な機能をコントロールしている脳幹が機能していないので、やがてまもなく死に至ります。

 これに対して、遷延性意識障害では脳幹は機能を失っていないため、脳を損傷した後も、比較的長期間生命が維持されることが多いようです。

 遷延性意識障害の原因としては、主なものとして、頭部外傷、脳血管障害、脳への酸素不足などが挙げられます。交通事故による東部外相(脳の損傷)によっても、遷延性意識障害八しばしばみられます。

2 受傷後のながれ ー 治療から介護へ

① 一般的な流れ

 交通事故により遷延性意識障害になってしまった場合、まずは、急性期病棟のある比較的大きな病院で治療を受けます。岐阜市内で言うと、岐阜大学医学部付属用便や岐阜県総合医療センターなどです。

 やがて、安定期なると急性期病棟を離れ、療養病棟などのある病院に移ります。

 その後、自宅や施設に移り、介護をうけながらそこで生活することになります。

② 岐阜市内での流れの一例

 岐阜県には、美濃加茂市に、遷延性意識障害の専門病院である中部療護センターがあります。

 そこで、岐阜県内で交通事故で遷延性意識障害になった方は、急性期病棟を出た後は、中部療護センターで2年から3年ほど治療を受けた後、自宅か施設に移るケースが多いようです。

 例えば、私が、過去、遷延性意識障害の方の成年後見人として損害賠償請求などをした事案では、①急性期病棟のある大きな病院 → ②療養病棟のある病院 → ③中部療護センター(2年~3年) → 施設 という流れで、最終的には、施設で生活することになりました。

 ②は、③の中部療護センターの順番待ちという意味合いもありました。

3 遷延性意識障害の方のために、何を、どうするか?

 大切なご家族が、交通事故により遷延性意識障害になってしまったばあ、ご家族の方は何をどのようにすればよいのでしょうか?

 それは、①治療と生活の場の確保と、②お金の確保、の2つです。①が目的で、②が手段と言えます。

 簡単にご説明します。

① 治療と生活の場の確保

 遷延性意識障害になってしまった場合、まずは治療をしないといけませんが、いつまでも病院にいられるというわけではありません。

 そうすると、最終的には生活の場を確保しないといけません。

 具体的には、①自宅で介護するか、②施設に入所するかということになります。

ア 自宅で介護する場合

 自宅で介護する場合には、だれがどのように介護するかが問題になってきます。介護用品をそろえたり、介護の専門職の人を用意するかなどを検討しないといけません。

イ 施設に入所する場合

 施設に入所するとしても、どの施設でもよいというわけではありません。

 遷延性意識障害の方は、気管支を切開していたり、胃婁(いろう)をしていたりする場合もありますし、頻繁に喀痰吸引をしないといけない場合もあります。したがって、看護師が常駐するなどある程度医療体制も整った施設を探す必要があります。

 しかし、このような施設を探すのは容易ではありません。過去に私が遷延性意識障害の方の成年後見人であったときには、ご家族の方と一緒に岐阜市役所の福祉課に相談に行き、適切な施設がないか紹介していただきました。

 当事務所では、このようなサポートもしてい亜mす

② お金の確保

 上記のように、治療したり生活の場を確保するためには、お金が必要です。

 そこで、お金を確保する手段を見ていきましょう。

ア 加害者(及びその保険会社)に対する損害賠償請求

 お金を確保する手段として最も重要なのは、加害者(及び加害者が加入する保険会社)に対する損害賠償請求です。

 このことはとても重要なので、あとで詳しくご説明します。 

イ 障害年金の取得

 次に重要なのは、障害者手帳を取得して、障害年金を受け取るという手段です。

 身体障害者手帳を取得するためには、医師に診断書(※1)を書いてもらい、市町村役場に申請書を提出します。

 遷延性意識障害の場合は、身体障害者の1級(※2)に認定されるのがほとんどです。

 身体障害者1級に認定されると、月額7万~8万円程度の障害年金が受給されます。

 ※1 ここに言う診断書とは、後に損害賠償請求する際の自賠責後遺症診断書とは別のものです。

 ※2 身体障害者1級は、後に損害賠償請求する際の自賠責後遺障害1級とは違う概念です。

ウ 福祉制度の利用

 身体障害者1級に認定されると、福祉制度の利用ができる場合があります。

 たとえば、岐阜市では、重度心身障害者等医療費助成制度により、保険対象の治療費の自己負担分が減免されることがあります。

 詳しくは、岐阜市のホームページをご覧ください。 → こちらから。

4 加害者に対する損害賠償請求

 遷延性意識障害になってしまった人のためのお金を確保する手段としては、加害者(及びその保険会社)に対する損害賠償請求が、最も重要です。

① 損害賠償請求の進め方、流れについてついて

ア 自賠責後遺障害の申請と後遺障害認定  

 受傷後しばらくして、症状が安定すると症状固定、つまり、それ以上治療しても治らない状態に至ったとされ、この時点で、自賠責後遺症診断書などのを医師に作成してもらいます。

 自賠責後遺障害診断書などができたら、自賠責調査事務所に、自賠責後遺障害の申請をします。

 遷延性意識障害の場合は、「神経系統の機能または精神に著しい障害を残し,常に介護を要するもの」であるとして後遺障害1級が認定されるのが通常です。である必要があるとされています。ここに、「常に介護を要するもの」とは,「重篤な高次脳機能障害のため,食事・入浴・用便・更衣等に常時介護を有するもの」を指します。

 後遺障害に認定された時点で、交通事故により被った損害が事実上、確定することになりますので、加害者などに損害賠償請求を行っていくことになります。

イ 成年後見人の利用

 遷延性意識障害の被害者の方には、損害賠償請求をしたり、入院契約、施設入所契約をすることが必要ですが、判断能力を失ってしまった被害者の方には、これらの法律行為ができません。

 そこで、被害者の方の代わりに、損害賠償契約や施設入所契約をしたり、被害者の方の財産を管理したりする成年後見人が必要です。

 成年後見人は、ご家族の方が家庭裁判所に申し立てをし、家庭裁判所が成年後見人を選任します。

 成年後見人には、弁護士一人が選任されたり、弁護士とご家族の方が一人ずつの合計2人が選任されることがあるようです。弁護士が損害賠償請求することを前提にしています。

 また、ご家族の方一人が選任され、そのご家族の方が弁護士を代理人として選任し、その弁護士が損害賠償請求を行うというパターンも考えられます。

 私が、担当したときは、弁護士である私と被害者のお母さんの二人が選任され、損害賠償請求の問題が解決した後は、お母さん一人が成年後見人を務めました。

 成年後見制度のご利用については、当ホームページの別のページをご覧ください。 → こちらから。

ウ 示談交渉、及び、民事訴訟など

 弁護士が成年後見人に選任されたり、親族の成年後見人が弁護士を代理人として選任すると、加害者の保険会社と示談交渉(話し合い)をします。

 話し合いがまとまれば、示談書を作成し、示談成立から約1か月後に保険会社から示談金が支払われます。

 示談交渉がうまく行かない場合は、地方裁判所に民事訴訟を提起します。

 地方裁判所でも、話し合いは行います。話し合いがまとまれば、和解調書が作られ、和解成立です。和解成立から約1か月後に和解金が支払われます。

 裁判所でも話し合いがまとまらなければ、裁判所が判決をして、損害額を決め、その支払いを加害者に命じます。

② どのような損害について、賠償請求していくのか ー 具体的な損害項目は何か。

逸失利益、慰謝料、将来介護費、親族固有の慰謝料

遷延性意識障害に関するコラム、及び、当事務所の解決事例

〇 交通事故で遷延性意識障害(せんえんせい・いしきしょうがい)になってしまったら、何をどうすればいいですか? → こちらから。

〇 遷延性意識障害の被害者の成年後見人として訴訟提起し、自賠責保険金4000万円のほか、8300万円の和解金を獲得した事案  岐阜県岐阜市 / 20代 / 男性 → こちらから。

〇 判例紹介 ー 交通事故により遷延性意識障害(植物状態)となった被害者の損害として、①将来の治療費が認められるか。②将来治療費から、健康保険の自己負担分を超える部分やその他福祉制度による給付などが控除されるか。③成年後見人の報酬分の費用が認められるか。について判断した裁判例 - 札幌地方裁判所判決平成28年3月30日判決 札幌地方裁判所平成27年(ワ)第558号 → こちらから。

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弁護士の紹介

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弁護士 杉島健二(岐阜県弁護士会所属)

弁護士経験19年目。市民の皆様や中小企業のための法律事務所を開設して19年目です。交通事故ではは被害者側に立ち、多くの後遺障害事故や死亡事故を解決してきました。その他、遺留分や遺産分割などの相続事件、労働事件、不動産問題などの民事事件や、離婚事件を解決してきました。

弁護士一人の小さな事務所ですが、柔軟かつ臨機応変に対応し、一つ一つの事件や依頼者の方を大切にしていきます。

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バス停のすぐ東側の8階建てのビルの7階に事務所があります。

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駐車場:近隣のコインパーキングをご利用ください。

この記事を書いた人

弁護士活動19年目の弁護士杉島健二。岐阜市で18年、岐阜市民と中小企業のための法律(弁護士)事務所です。交通事故の被害者救済や相続を中心に、様々な民事事件や家事事件に対応してきました。

弁護士一人の小さな事務所として、柔軟かつ臨機応変に、依頼者一人ひとりを大切にしています。

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