交通事故の損害賠償の根拠となる不法行為制度は、加害者と被害者との間の損害の公平な負担という点を制度趣旨の一つとしています。
そこで、発生した損害を加害者のみに負担させるのが、加害者と被害者との間で公平でないと認められる場合などには、損害の一部を被害者に負担させる、つまり、損害額の減額がされることがあります。
こうした損害額の減額事由には、次のようなものがあります。
1 過失相殺
交通事故の被害者にも事故の発生や拡大について一定の落度や過失などがある場合、発生した損害の一部を被害者に負担させるために、損害額を減額することが公平の理念に合致するときがあります。
このようなときに減額の方法として行われるのが過失相殺です。
そして、どの程度の過失相殺をするか(過失相殺率)を決める際の基準となるものが過失割合です(通説)。
過失割合は、当事者(加害者と被害者)双方の過失の大商の割合で示され、通常は、「加害者:80パーセント、被害者20パーセント」などとあらわされます。
2 素因減額
損害、特に後遺障害の発生に、被害者にもともとあった身体的・精神的性質や既往症などの素因が、損害の発生や拡大に寄与していたり、一因となっている場合には、その素因が影響している割合の分だけ損害額を減額するのが公平の理念に合致する場合があります。
このようなときに、減額の方法として行われるのが素因減額です。
この素因減額について、最高裁判所昭和63年4月21日判決は、「身体に対する加害行為と発生した損害との間に相当因果関係がある場合において、その損害がその加害行為のみによつて通常発生する程度、範囲を超えるものであつて、かつ、その損害の拡大について被害者の心因的要因が寄与しているときは、損害を公平に分担させるという損害賠償法の理念に照らし、裁判所は、損害賠償の額を定めるに当たり、民法七二二条二項の過失相殺の規定を類推適用して、その損害の拡大に寄与した被害者の右事情を斟酌することができるものと解するのが相当である。」などとして、素因減額を施す範囲について、一定の限界を定めています。
3 損益相殺
被害者が交通事故によって損害を被ると同時に、同一の原因によって利益を受ける場合には、それらの損害と利益との間に同質性が認められる場合は、その利益の額だけ損害額を控除するのが公平の理念に合致する場合があります。
このようなときの減額の方法として行われるのが損益相殺です。
4 無償同乗者
被害者が事故を起こした加害者が運転する自動車に無償で同乗させてもらっていた場合、被害者は無償で(ただで)同乗させてもらっていたのですから、被害者に発生した損害の一部は被害者が負担するのが公平の理念に合致するようにも思えます。
しかし、無償同乗であるからといって、加害者の被害者に対する注意義務が軽減されるわけではありません。
したがって、今日では、被害者(無償同乗者)が損害の一部を負担させられる(損害額が減額される)のは、被害者に、事故発生に対する一定の帰責性が認められる場合に限られ、無償同乗だけを理由として損害額の減額はされないといっていいでしょう。
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すぎしま法律事務所 弁護士 杉島健二(岐阜県弁護士会所属)
当事務所は、交通事故の被害者側の損害賠償請求を最重点業務としています。これまで、多くの死亡事故や後遺症のある事故を解決してきました。担当してきた後遺症は、高次脳機能障害、遷延性意識障害(いわゆる「植物状態」)、CRPS、大動脈解離、脊柱や各関節の変形障害・運動障害、むち打ちなどの神経症状など、多種多様です。弁護士費用特約が使えます。