介護事故

転倒行為を繰り返す入所者に対して行った下半身をエプロン型帯又はY字帯を用いて行った身体拘束が違法ではないと判断された事例 ー 東京地方裁判所平成24年3月28日判決 東京地方裁判所平成22年(ワ)第31317号

東京地方裁判所平成24年3月28日判決 東京地方裁判所平成22年(ワ)第31317号 判例時報2153号40頁

第1 当事者、及び、事案の概要
1 施設利用者(X)
 Xは、以下に述べる身体拘束があったとき80歳で、骨粗鬆症の既往歴があり、パーキンソン病(重症分類度4)、高血圧症、神経症、抑うつ状態、めまい症等の診断を受けていた。
2 施設事業者(Y)
 Yは、介護老人保健施設(以下「本件介護施設」という。)を運営する社団法人である。
3 当事者関係
 Xは、平成20年5月29日、本件介護施設との間で入所契約書を取り交わし入所利用契約を締結して、本件介護施設に入所した。
4 事案の概要
 Xが、入所中にエプロン型帯又はY字帯を用いて下半身を違法に身体を拘束されたと主張して、Yに対して、入所利用契約上の債務不履行による損害賠償の支払を求めた事案。

第2 事情の経過 - 裁判所の認定した主要な事実
① Xと本件介護施設の入所利用契約に係る入所契約書4条3項は、原則としてXに身体拘束を行わないが、自傷他害のおそれがある等緊急やむを得ない場合は、施設管理者又は施設長の判断で身体拘束その他Xの行動を制限する行為を行うことがある旨規定している。
② 本件介護施設の医師診療録には、平成21年7月7日付けでXを2階の一般棟から3階の認知症専門棟に移動させるに当たり、2階一般棟からの申し送り事項として、「以前より転倒の危険性は十分にあり、頻回の訪室、コールマットの設定をしたが、ここ一か月前より著しい体力低下、理解力低下がみられる。頻回にベッド回りで立ち上がったり、歩き回ったり、フットレスに足を引っかけそうに跨いだり、車椅子乗車時に歩き出したり、洗面所、居室トイレに歩き出してしまっている。注意を促すが理解できていない。また、足元のベッド柵の方から上ろうとしたり、居室のドアを閉めに出てきたり、危険なのでドアをひもで固定すると、そのひもに車椅子を引っかけてみたり、予測できない行動がみられるようになってきている。…職員としてはコールマットが鳴ると昼夜問わずすぐ走っていき対応するが、転倒してしまっていることも度々あり、入眠するまで徘徊は続く。下肢筋力の低下著しく、立位の不安定も強くみられ起立時介助の必要なこともあり、大変危険…今、現在、認知老人の日常生活自立度判定基準がⅣレベルに相当している。」との記載がある。
③ 本件介護施設の職員は、次のアないしオのとおり、エプロン型帯又はY字帯を用いてXの下半身を拘束(以下、「本件各身体拘束」という。)し、Xが落ち着くなどした後に拘束を解いた。
ア 平成21年7月9日午後0時から午後3時まで、Xは立ち上がりが頻回で立位時不安定であるから、A看護師が抑制し、Xが落ち着いたため、午後3時頃抑制を解いた。
イ 同月10日午前11時30分頃、Xが自力歩行しているところ、入浴時間のためホールには夜勤者Bしかいないため、Bは声をかけた上でXを抑制した。抑制を頻回はしていない。同日午後六時頃、Xは立ち上がりが頻回で歩行しようとしていたところ、C介護福祉士は、他の入所者の就寝介護をする必要があるため、Xを抑制した。同日午後8時40分頃、Xがベッドから立ち上がったため、Cがトイレに誘導したが排尿はなく、入眠を促したが、Xはこれを拒否して意味不明なことを言い、歩き出そうとしたものの足元がふらつくため、戊原一夫がXを抑制した。
ウ 同月11日午後6時頃、Xは夕食摂取中立ち上がり、Bが「何かご用ですか。」と聞いても、「お母さんが」と言い座ろうとしないことから、BはXを抑制した。
エ 同月12月日午後30時頃、Xは昼食後から頻回に立ち上がり、独歩があり、付き添い歩行をするも職員に手をあげていたところ、落ち着きがなく歩行が不安定であったため、D介護士はXを抑制した。
オ 同月16日午前9時30分頃、Xが落ち着かず、独歩が頻回で歩行が不安定で前傾がひどいことから、E介護士はXを抑制した。
④ 上記拘束の具体的な態様は、Xに拘束する旨を伝えた上、Xを車椅子に座らせたまま、エプロン型帯又はY字帯を下腹部付近から車椅子背後に結びつけて、下半身の自由を制限して立ち上がり等を制限するものである。
⑤ なお、Xは、本件施設に入所以来、本件各身体拘束に至るまで幾度となく転倒した旨の医師診療録の記載があり、また、本件各身体拘束のうちの⑤の身体拘束の翌日にも転倒し左大腿骨転子部骨折を負い、この転倒骨折についてYに賠償責任が認められている。

第3 争点
 本件各身体拘束行為の適法性。

第4 裁判所の判断
 裁判所は、以下のように述べて、本件各身体拘束を適法とした。 
「以上認定のとおり、入所利用契約上、Yは原則としてXの身体を拘束しない義務を負っているが、自傷他害のおそれがある等緊急やむを得ない場合には、施設長等の判断で身体拘束等を行うことがある旨規定しているところからみて、身体拘束は緊急やむを得ないと認められる場合には許容されるというべきである。
 本件において、Yは、いずれもXが一人で歩行しようとするなどしたため、Xは同職員の指示を理解することができない状況にあったことから、転倒の危険を避けるために一時的に行ったものであることは前記(2)認定のとおりであるから、Xの転倒の危険を避けるために身体拘束が必要であり、他に適切な代替方法があったとは認め難い。しかも、同職員は、Xを車椅子に座らせたまま、エプロン型帯又はY字帯を下腹部付近から車椅子背後で結びつけて、下半身の自由を制限して立ち上がり等を制限し、Xが落ち着くなどした後に拘束を解いたことは前記(2)認定のとおりであり、身体拘束の態様及び方法は必要最小限度である。このように、Yの上記拘束行為は緊急やむを得ずに行ったものであり、その態様及び方法も必要最小限度であるから、入所利用契約上の義務に違反せず、不法行為法上違法であるということもできない。」と判断した。

第5 本判決のポイント
1 本件のように身体拘束が問題となる事案は、①身体拘束の具体的態様の特定、②身体拘束の適法性などが問題となる。本判決もこれらについて判断している。
2 そして、本判決は、身体拘束を緊急やむを得ないと認められる場合に、いわば例外的に許容されるものとしつつ、本件では、本件各身体拘束が、Y職員の指示を理解することができないXの転倒を防止するための一時的なものであったこと、Xの転倒の危険を避けるために身体拘束が必要であったこと、他に適切な代替方法がなかったこと、Xが落ち着くなどした後に身体拘束を解いたことなどを指摘して、本件各身体拘束の態様及び方法は必要最小限とした。
3 ところで、介護施設における高齢者に対する身体拘束は、現在では原則として高齢者虐待に当たるとされる。
 したがって、身体拘束が許されるのはあくまでも例外的な場合である。この点、厚生労働省「身体拘束ゼロ作戦推進会議」は、平成13年3月、「身体拘束ゼロへの手引き ~高齢者ケアに関わる全ての人に~」を作成し、緊急やむを得ない場合に身体拘束が許容されるための要件として、①切迫性、②非代替性、③一時性の3要件を掲げた。
 本件各身体拘束も、この3要件に照らして、例外的に許容される場合といいうるであろう。
4 ただ、本件では、本件各身体拘束に先立つ数回の転倒があり、本件各身体拘束後にも、Yに賠償責任が認められる転倒事故が起きたことも、本件各身体拘束が適法と判断されたことに影響していると思われる。仮に、本件身体拘束を違法としてしまうと、本件各身体拘束後に発生しYに賠償責任が認められたXの転倒行為を具体的にどのような手段で防止すべきであったか説明が困難となってしまうと思われるからである。

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