交通事故

1 損害賠償請求ができる人と請求される人

1 損害賠償請求ができる人(請求主体)

(1) 本人として請求する場合

損害賠償請求ができるの代表的な人(請求主体)とは、交通事故により傷害や後遺障害などを負った被害者本人です。

また、交通事故による直接の被害者が死亡してしまった場合は、その相続人は被害者が取得した損害賠償請求権を相続しますから、死亡した直接の被害者の相続人も損害賠償請求できます。

さらに、死亡した被害者と一定の身分関係のある者や、重度の後遺症を負った被害者と一定の身分関係のある者は、固有の慰謝料請求権を取得し、行使できる場合があります。

(2) 本人の代理人として請求する場合

 例えば、直接の被害者が未成年の場合、たとえば、その両親、すなち親権者である法定代理人が、未成年者の代理人として損害賠償請求をすることができます。ただし、その法的効果は、被害者本人である未成年に帰属します。

2 損害賠償請求される人(責任主体)

(1) 民法709条の責任 - 原則的な法的責任

損害賠償請求される責任主体の原則的な形態は、当該交通事故について民法709条の損害賠償責任を負う人です。

この民法709条は、「故意又は過失によって他人の権利又は法律上保護される利益を侵害した者は、これによって生じた損害を賠償する責任を負う。」と定めています。

ですから、自動車の運転者が、故意(わざと)または過失(不注意)によって、事故を起こし、他人に傷害や後遺障害を負わせたり、死亡させたりした場合は、損害賠償責任を負うことになります。

逆に、運転者に故意や過失がない場合には、民法709条による損害賠償責任は負いません。

交通事故の損害賠償については、この民法709条による損害賠償責任が、原則的な法的責任形態となっています。

(2) 自動車損害賠償保障法3条の「運行供用者責任」 - 加重された法的責任

先に述べた民法709条においては、事故を起こした加害者に故意または過失があることが要件であったり、故意または過失の行為と損害との間に因果関係があることが要件で、損害賠償請求をする被害者は、これらの要件が満たされることを立証しないといけません。

しかし、これらの立証作業は容易でない場合が多く、立証できないことが理由で損害賠償請求ができなくなってしまうとなれば、交通事故の被害者保護の観点からは、問題があるといえます。

そこで、自動車損害賠償法3条本文は、「自己のために自動車を運行の用に供する者は、その運行によつて他人の生命又は身体を害したときは、これによつて生じた損害を賠償する責に任ずる。」と定めています。

そして、この「自己のために自動車を運行の用に供する者」を「運行供用者」といい、自動車損害賠償法3条によって運行供用者に生じる賠償責任を「運行供用者責任」といいます。

では、運行供用者責任が発生するのはどういう場合かという点が問題となりますので、以下に、各要件についてご説明いたします。

Ⅰ 自動車の運行による事故であること

「自動車」とは、自動車損害賠償補償法2条1項に定義された「道路運送車両法第2条第2項 に規定する自動車(農耕作業の用に供することを目的として製作した小型特殊自動車を除く。)及び同条第3項 に規定する原動機付自転車」をいいます。

「運行」とは、自動車損害賠償補償法2条2項に定義された「人又は物を運送するとしないとにかかわらず、自動車を当該装置の用い方に従い用いることをいう。」とされ、この「当該送致の用い方に従い用いること」とは、自動車が走行装置を用いて走行するほか、その自動車に設置されている固有の装置の操作も含まれるとされています(最高裁昭和52年11月24日判決)。

Ⅱ 事故のために自動車を運行の用に供する者であること - 運行供用者性

判例は、事故を起こした当該自動車について、①どれだけ支配していたかという観点(運行支配)と、②どれだけの利益を受けていたかという観点(運行利益)から判断しています。

これは、①事故を起こした自動車を管理支配するなどして事故を防止できる立場にあった者は事故から生じた損害について法的責任を負うべきという危険責任の法理、②事故を起こした自動車によって利益を得ていた者は、そこから生じる損害についても負担すべきという報償責任の法理を基礎として、民法709条の責任を拡張しているといえます。

この運行供用者にあたりうる例としては、自動車の所有車や自動車を他人に貸した者、会社の自動車を従業員が運転していた場合のその会社などが挙げられます。

Ⅲ 被害者が他人であること

「他人」とは、運行供用者及び運転者以外の者をいいます(最高裁昭和42年9月29日判決)。

Ⅳ 生命身体を害したこと

運行供用者責任は、人身事故の被害者救済を目的としているので、物損事故の場合は運行供用者責任は発生しません。

Ⅴ 自動車損害賠償補償法3条但書の3つの要件を運行供用者が証明できないこと

自動車損害賠償法3条本文によって運行供用者責任が発生した場合、その運行供用者は、同法但書の3要件、すなわち、①自己及び運転者が自動車の運行に関し注意を怠らなかつたこと、②被害者又は運転者以外の第三者に故意又は過失があつたこと、③自動車に構造上の欠陥又は機能の障害がなかつたことを証明しない限り免責されません。

(3) その他の責任

(3) その他の責任

運行供用者責任の規定のほかにも、民法714条の責任無能力者の監督義務者などの責任の規定、民法715条の使用者責任の規定などは、民法709条の責任を拡大して、被害者保護を図る規定です。

これらの規定は、交通事故に損害賠償の局面でも適用される規定です。

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