1 社員の意義
社団医療法人の社員とは、社団医療法人の構成員で、社員総会を構成する者をいいます。
社団医療法人は、人の集まりである社団ですからその構成員の存在が必須となり、その構成員が社員ということになります。社員と言っても、勤務医師や看護師などの従業員ではありません。
また、社団医療法人は、社団としての意思決定をする必要がありますが、その意思決定をする機関(合議体)が社員総会で、社員は、その社員総会の構成員でもあります。
この社団医療法人の社員は、株式会社における株主に相当するといわれることがありますが、以下の点に違いがあります。
まず、医療法における社団医療法人は、出資と社員の地位が分離されていますので、社団医療法人の社員と出資者は区別されます。したがって、社団医療法人の社員それ自体の地位には、株式会社の株主が有する利益配当請求権や残余財産分配請求権などの自益権はありません。
また、株主総会における議決権はその株主数が有する株式数に応じて付与されますが、社団医療法人の社員総会では、社員が一人一票の議決権を有するにすぎません(医療法第46条の3の3第1項)。これは、株式会社における株主は、その個性が重視されないのと、出資に応じて議決権を付与するのが合理的なのに対して、社団医療法人における社員たる地位は出資と分離され、しかも、誰が社員であるかが重要視されるので、社員一人に一票を付与するのが合理的だと考えられるからです。
2 社員たる地位の取得
社団医療法人の社員の資格については、法律上は明文はありませんが、医療法は、定款で社員たる資格の得喪に関する規定を定めなければならないとしています(医療法44条1項8号)。
そこで、たとえ社員総会の決議で、新たな者を社員と迎えることを認めたとしても、その者が、定款に定める資格を有していなければ、社員となることはできないと解されます。
また、営利を目的としない法人は社員となることはできますが、社団医療法人の非営利性(医療法54条1項)の関係で、営利法人は社団医療法人社員になれないとされています(※1)、(※2)。
3 社員たる地位の変動
① 譲渡
社員たる地位は譲渡の対象となるか問題になりますが、否定すべきと考えます。なぜなら、社団医療法人たる社員の地位は出資と分離され財産的側面はほとんどないこと、社団医療法人における社員は、誰が社員となるかが重要で個性が重視されているからです。社員の譲渡と同じ効果を求めるためには、定款が認める範囲で、現社員の退社と新社員の入社という手続きをとるべきでしょう。
② 相続
また、社員たる地位は相続の対象となるか問題になりますが、やはり、否定すべきと考えます。なぜなら、社団医療法人たる社員の地位は出資と分離され財産的側面はほとんどないこと、社団医療法人における社員は、誰が社員となるかが重要で個性が重視されていること、社員たる地位の相続を認めると、相続人が複数の場合、複数の社員が新たに発生するとも考えられ法律関係が錯綜すること、いわゆる標準モデル定款(※3)は、その15条1項2号で、社員の死亡を退社事由としているからです。
4 社員たる地位の喪失
社員は、自分の意思でいつでも退社できるかどうか問題となりますが、肯定すべきです。社員には、民法上の委任に関する規定が準用され、受任者はいつでもできるからです。
この点、社員の退社について、社員総会または理事会の承認を要することができるか問題となりますが、定款にそのような定めのない限り否定すべきと考えます。上記のように、医療法も社員の得喪に関する事項は定款で定めるべきとしており、定款で、社員の退社について社員総会や理事会の承認を要すると規定していない以上、社員の退社の要件を加重すべきでないからです(※4)。
※1 「医療法人の機関について」(平成28年3月25日医政発0325第3号)
※2 「医療法人に対する出資又は寄附について」(平成 3 年 1 月 17 日 指第 1 号 東京弁護士会会長あて厚生省健康政策局指導課長回答)は、「営利を目的とする商法上の会社は、医療法人に出資することにより社員となることはできないものと解する。」としています。
※3 「医療法人制度について」(平成19年3月30日 医政発第0330049号 各都道府県知事・各地方厚生局長あて 厚生労働省 医政局長通知)(最終改正:平成31年3月29日 医政発0329第36号)の別添1
※4 「医療法人の社員の退社について」(平成 3 年 10 月 30 日 指第 70 号 福岡県弁護士会会長あて厚生省健康政策局指導課長回答)
関連する法律の条文など
医療法
第四十四条第2項
医療法人を設立しようとする者は、定款又は寄附行為をもつて、少なくとも次に掲げる事項を定めなければならない。
八 社団たる医療法人にあつては、社員総会及び社員たる資格の得喪に関する規定
第四十六条の三の三第1項
社員は、各一個の議決権を有する。
民法
第六百五十一条 委任は、各当事者がいつでもその解除をすることができる。
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