医療法人の法的基礎知識

MS法人とは

1 MS法人の意義

 MS法人とは、メディカル・サービス法人と呼ばれる法人の通称で、医療系のサービスなどを行うことを目的とし、医療法人とは別に設立される株式会社などの営利法人をいいます。MS法人という形態の法人が、医療法などの法律に規定されているわけではありません。

2 MS法人のメリット

 MS法人のメリットとしては、一般に、以下のことがいわれます。

(1) 医療法人の利益をMS法人に移転することによる法人税の節税

 例えば、医療法人が行っている本来の医療業務のほかの、窓口業務、会計業務、清掃・衛生業務などをMS法人に委託するとします。そうすると、それらの経費(対価)が医療法人からMS法人に支払われることになりますから、医療法人の利益が圧縮されます。

 その利益が圧縮された医療法人が出資金額が1億円以下の場合には、800万円以下の所得については、23.2%から軽減された15%の税率が適用されます。(法人税法66条、租税特別措置法42条の3の2)。

(2) 理事長(院長)の所得を親族に分配することによる所得税の節税

 所得税は累進課税方式ですから、医療法人の理事長(院長)の報酬が高くなればなるほど、その理事長(院長)には高い税率の所得税が発生します。

 そこで、MS法人を設立し、その役員に親族を就任させ、医療法人の理事長の報酬を、MS法人の親族の役員の報酬に転嫁することができれば、理事長や親族の報酬の所得税は低い利率となり、全体として負担する所得税の額が安く抑えられる可能性があります。

(3) 財産の分散による相続税の節税

 医療法人が設立されている場合、その医療法人が運営する病院や診療所の土地建物は、理事長(院長)から医療法人に賃貸されていることが多いです。この場合、その土地や建物は理事長(院長)の所有物であり、かつ、医療法人から理事長(院長)へ賃貸料が支払われます。

 そうすると、理事長に資産が集中蓄積されてしまうので、理事長が死亡した場合、非常に多額の相続税が発生するおそれがあります。

 そこで、理事長が所有する土地や建物を、MS法人に売却し、MS法人が医療法人に対して賃貸すれば、土地や建物はMS法人の所有物となり、また、医療法人からの賃貸料もMS法人に蓄積されます。

 したがって、理事長が死亡した場合でも、土地や建物、そして、集積した賃貸料が相続税の対象となることを防ぐことができます。

(4) 医療法人ができない業務が可能

 医療法人はその非営利性(医療法54条)や、医療法が規定している本来業務などに限定されていることから、活動範囲に制限があります。

 そこで、医療法人の運営に必要な業務や、その他、医療法人が行うことができない業務を行うことを目的として、MS法人が設立されることがあります。

3 MS法人設立の注意点

 しかし、MS法人の設立には、次のような注意が必要です。

(1) 役員の兼務の禁止

 医療法人の役員といわゆるMS法人の役員の兼務を禁じる医療法人法上の規定はありません。

 しかし、病院や神龍所などの開設許可の審査にあたっては、厚生労働省の通知(※1)により、事実上禁止されている点に注意が必要です。

 くわしくは、「MS法人の役員の兼務の禁止について」のサイトをご覧ください。このサイトは、こちら。

(2) 全体としての事務作業量が増える。

 医療法人は、MS法人との取引について「関係事業者との取引状況報告書」(医療法51条1項)等の書類の作成を要する場合があるほか、法人が2つになるわけですから、単純に事務作業量や届出、報告が増えることになり、その負担は軽いものではないのが通常です。

 関係事業者との取引状況報告書については、「MS法人の関係事業者との取引状況報告書」のサイトをご覧ください。このサイトは、こちら。

(3) その他

 最近では、ごく一部の悪質な税理士や行政書士が、自分たちの仕事を獲得するために、無責任にMS法人の設立を勧めてくることがあるようですので、注意が必要です。

※1 「医療機関の解説者の確認及び非営利性の確認について」(平成24年3月30日 医政総発0330第4号 医政指発0330第4号)、この通知の厚生労働省のサイトは、こちら。

ご相談の予約

医療法務については、岐阜の弁護士杉島健二(岐阜県弁護士会所属)に、ご相談ください。

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〒500-8833 岐阜市神田町1-8-4 プラドビル7A

すぎしま法律事務所 弁護士 杉島健二(岐阜県弁護士会所属)


ビルの7階に事務所があります。エレベーターがあります。

事務所のあるビルのすぐ前が、「商工会議所前」(旧:市役所南庁舎前)のバス停です。

関係する法律などの条文

医療法
第五十四条 医療法人は、剰余金の配当をしてはならない。
法人税法
第六十六条 内国法人である普通法人、一般社団法人等(別表第二に掲げる一般社団法人及び一般財団法人並びに公益社団法人及び公益財団法人をいう。次項及び第三項において同じ。)又は人格のない社団等に対して課する各事業年度の所得に対する法人税の額は、各事業年度の所得の金額に百分の二十三・二の税率を乗じて計算した金額とする。
2 前項の場合において、普通法人のうち各事業年度終了の時において資本金の額若しくは出資金の額が一億円以下であるもの若しくは資本若しくは出資を有しないもの、一般社団法人等又は人格のない社団等の各事業年度の所

租税特別措置法

第四十二条の三の二 次の表の第一欄に掲げる法人又は人格のない社団等(普通法人のうち各事業年度終了の時において法人税法第六十六条第六項各号若しくは第百四十三条第五項各号に掲げる法人又は次条第八項第八号に規定する適用除外事業者に該当するものを除く。)の平成二十四年四月一日から令和五年三月三十一日までの間に開始する各事業年度の所得に係る同法その他法人税に関する法令の規定の適用については、同欄に掲げる法人又は人格のない社団等の区分に応じ同表の第二欄に掲げる規定中同表の第三欄に掲げる税率は、同表の第四欄に掲げる税率とする。

第一欄第二欄第三欄第四欄
一 普通法人のうち当該各事業年度終了の時において資本金の額若しくは出資金の額が一億円以下であるもの若しくは資本若しくは出資を有しないもの(第四号に掲げる法人を除く。)又は人格のない社団等法人税法第六十六条第二項及び第百四十三条第二項百分の十九百分の十五
二 一般社団法人等(法人税法別表第二に掲げる一般社団法人及び一般財団法人並びに公益社団法人及び公益財団法人をいう。)又は同法以外の法律によつて公益法人等とみなされているもので政令で定めるもの法人税法第六十六条第二項百分の十九百分の十五
三 公益法人等(前号に掲げる法人を除く。)又は協同組合等(第六十八条第一項に規定する協同組合等を除く。)法人税法第六十六条第三項百分の十九百分の十九(各事業年度の所得の金額のうち年八百万円以下の金額については、百分の十五)
四 第六十七条の二第一項の規定による承認を受けている同項に規定する医療法人同項百分の十九百分の十九(各事業年度の所得の金額のうち年八百万円以下の金額については、百分の十五)

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