介護事故

有料老人ホームに入所中の女性に褥瘡が生じた事案において施設事業者に専門医に受診させるべき注意義務に違反したとは認められないとされた事例 ー 東京地方裁判所平成26年2月3日判決 東京地方裁判所平成24年(ワ)第19503号

東京地方裁判所平成26年2月3日判決 東京地方裁判所平成24年(ワ)第19503号 判例時報2222号69頁

第1 当事者、及び、事案の概要


1 施設利用者(X)
Xは、本件事故当時91歳の女性。
2 施設事業者(Y)
 Yは、有料老人ホーム(以下、「本件施設」という。)を運営している。
3 当事者関係
 XとYは、平成20年2月16日、有料老人ホーム入居契約、特定施設入居者生活介護・介護予防特定施設入居者生活介護利用契約(以下「本件契約」という。)を締結し、同日、Xは本件施設に入所した。

第2 事実の経過 ― 裁判所が認定した主な事実


① Xの仙骨部に、平成22年6月11日、皮膚剥離(0.3×0.5、0.6cm程度)が認められた。
② Xの同年月29日付け介護日誌には、同日午前中Xの仙骨部に1cm程度の褥瘡を認めた旨、別の入所者が同日運動会を欠席した旨の記載がある。
③ Xは、同年10月12日、臀部表皮に剥離と出血を認められた。
④ Xは、同月29日、1cm程度の仙骨部表皮剥離とその周囲が黒くなっていると認められた。
⑤ Xは、同年11月5日、臀部の皮膚状態の悪化を認められ、Mクリニック皮膚科を受診した。
⑥ Mクリニック皮膚科の医師は、前同日、Xを診察し、直径5~6cmで全体的に皮膚が壊死し、皮下にポケットを生じている褥瘡を認め、一部壊死した組織を全体的に除去することはできず少しずつ除去するという治療方針を立てた。
⑦ Xは、同月7日にも、臀部の皮膚状態の悪化を認められた。
⑧ Xは、同月8日、Mクリニック皮膚科を受診し、同クリニック皮膚科医師は、壊死組織が拡大していると診断し、壊死組織の一部を除去した。

第3 争点


1 Xの褥瘡はいつ発生したか
2 Yは、Xの褥瘡などの発症を予防する義務、及び、医療機関を受診させる義務に違反したか。

第4 裁判所の判断


1 褥瘡の発生時期について 

                     
 裁判所は、「Xの平成22年9月29日付け介護日誌には、同日午前中Xの仙骨部に1cm程度の褥瘡を認めた旨の記載があるが、Xが入所していた本件ホームで運動会が開催された日は同年10月29日であり、上記介護日誌は誤った作成日付を記載したものと認められ、そうすると、Xが褥瘡を発症したのは、1cm程度の仙骨部表皮剥離とその周囲が黒くなっているのを認めた前同日(平成22年10月29日)であると認められる。」として、Xの褥瘡の発生時期を、原告が主張する平成22年9月29日ではなく、同年10月29日であると認定した。


2 Yの注意義務違反について


(1) 褥瘡などの発症を予防する義務の違反について
 裁判所は、「しかしながら、YがXの臀部を観察して異常を認めて皮膚科を受診させたことは、(1)で判示したとおりであり、臀部を観察しなかったとは認められない。」、「Yが、Xにつき適時に体位交換やオムツの交換、栄養状態の把握や維持改善を行わなかった具体的形跡は見当たらない。その他、Xが尿路感染症を発症したことについて、Yの注意義務ないしその違反を根拠付ける的確な事実の主張はなく、かつこれらを根拠付ける的確な事情も見当たらない。」として、褥瘡などの発症を予防する注意義務に違反していないと判断した。
(2) 医療機関を受診させる義務の違反について 
 裁判所は、「Yは、同月12日、Xに臀部表皮の剥離と出血を認め、同月29日に上記のとおり1cm程度の仙骨部表皮剥離とその周囲が黒くなっているのを認めた1週間後の同年11月5日にMクリニック皮膚科を受診させている。その後の経過は、同クリニックの医師が、前同日、Xを診察し、直径5~6cmで全体的に皮膚が壊死し、皮下にポケットを生じている褥瘡を認め治療を開始したが奏功せず、Xの褥瘡に対する措置は入院の上施行されることとなったというものである。
 以上によれば、Yは、Xの臀部を観察して異常を認めた際、適宜に専門医を受診させており、YにXを専門医に受診させるべき注意義務に違反したとは認められない。」と判断した。

第5 本判決のポイント


1 本件では、まず褥瘡の発生時期が問題となった。
 というのは、Xの平成19年9月29日付介護日誌には、同日午前中Xの仙骨部に1cmの褥瘡を認めた旨、別の入所者が同日運動会を欠席した旨の記載があったので、原告はこれらの記載を根拠に、Xの褥瘡は平成19年9月29日の時点ですでに発生していたと主張していた。
 しかし、Xが入所していた本件施設で運動会が開催されたのは同年10月29日であることが別の証拠から明らかとなったため、裁判所は、Xの仙骨部に褥瘡が認められた日も同年10月29日であると認定した。
2 次に、YのXに対する褥瘡などを予防する注意義務については、「Yが、Xにつき適時に体位交換やオムツの交換、栄養状態の把握や維持改善を行わなかった具体的形跡は見当たらない。その他、Xが尿路感染症を発症したことについて、Yの注意義務ないしその違反を根拠付ける的確な事実の主張はなく、かつこれらを根拠付ける的確な事情も見当たらない。」として、注意義務違反を基礎づける具体的な事実を認定できないとして、注意義務に違反したという判断をしなかった。
 損害賠償請求について、債務不履行構成にせよ不法行為構成にせよ、注意義務違反を基礎づける事実ないし加害行為(本件では不作為)の事実に関する立証責任は、原告側にあるとされる。しかし、本件におけるこれらの事情は、Y側(施設側)の支配領域に関する事柄であるから、原告に厳格な立証責任を負わせた結果であるとすれば、疑問が残る。
 実際の訴訟で、原告と被告との間でどのような主張立証が展開されたかについて興味が残る。
3 最後に、医師に受診させる義務については、褥瘡が発見された平成22年10月29日から7日後の同年11月5日に受診させたことについて、「Xを専門医に受診させるべき注意義務に違反したとは認められない。」と判断した。

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