交通事故

1-(2) 交通事故の損害賠償請求

大切なご家族などが交通事故でなくなられてしまったとき、残されたご家族は、その後、どのように損害賠償請求をすればいいのでしょうか。

以下に、ご説明いたします。

1 損害賠償請求の主体 - 損害賠償請求できる人

(1) 相続人

死亡事故の場合に損害賠償請求ができるのは、死亡した被害者の相続人です。

相続とは死亡した人の生前の法律関係、すなわち、権利義務関係一般を死亡した人と一定の身分関係にある者に承継させる制度です。事故に遭った直接の被害者は、事故によって、加害者に対する損害賠償請求権を取得しますが、亡くなってしまうと、その損害賠償請求権が相続人に承継されるのです。

誰が相続人になるかは、民法の規定により決まります。この点、配偶者がいれば配偶者は常に相続人となります。そして、子がいれば子も相続人となります。子がいなければ直系尊属が相続人となり、さらに、子も直系尊属もいない場合は兄弟姉妹が相続人となります。

相続人が複数人いる場合、損害賠償請求権は各相続人に法定相続分に従って当然に分割されて相続し、各相続分は単独で(他の共同相続人とは独立して)損害賠償請求権を行使できます。

なお、相続は、交通事故の損害賠償請求権だけが対象となるのではなく、死亡した人の生前の法律関係一般を対象にしますので、例えば、土地建物といった不動産、預貯金、株式といった資産(プラスの財産)だけでなく、借金や保証債務などと行った負債(マイナスの財産)も対象となります。

ですので、相続する資産の総額より相続する負債の総額の方が多い場合などには、相続放棄なども検討する必要がある点に注意が必要です。

(2) 被害者の近親者 ― 被害者の家族などによる慰謝料請求

上記(1)は、直接の被害者ではない相続人が損害賠償請求することになっていますが、あくまで直接の被害者自身が、一旦は、損害賠償請求権を取得することを前提にしています。

これに対して、直接の被害者ではないけれども、死亡してしまった直接の被害者と近い身分関係にある人たちも、直接の被害者の死亡によって精神的苦痛が生じると考えられます。

そこで、民法711条は、直接の被害者の父母、配偶者、子が固有の慰謝料請求権を取得することを認めています。

また、最高裁判所昭和49年12月17日判決は、民法711条に該当しない者であっても、「被害者との間に本条(民法711条)所定の者と実質的に同視できる身分関係が存在し、被害者の死亡により甚大な精神的苦痛を受けたものには、本条が類推適用される。」として、被害者の父母、配偶者、子に準じる者についても、慰謝料請求権を取得する余地を認めています。

2 損害の項目 - 損害の種類

死亡事故の場合の損害の項目(種類)は、次のように整理できます。

(1) 積極損害

積極損害とは、死亡によって支出せざるを得なくなった損害です。

代表的なものとして、葬儀関係費があります。

具体的には、葬儀代、仏壇仏具購入費、墓碑建立費用、遺体搬送料、遺体処置費用などがあります。

なお、交通事故による受傷から死亡までの間に時間的間隔が空いている場合、その間の治療費や付添費なども積極損害として損害賠償請求できますが、傷害による損害と整理して理解するのが正しいです。

(2) 消極損害 - 逸失利益

交通事故によって死亡してしまった人は、交通事故がなえれば得られるであろう利益を受けられなくなってしまいます。そしてこの得られなくなってしまった利益を、逸失利益といいます。

死亡事故における逸失利益には、主に、① 将来働いて得られたであろう収入が得られなくなった損害についてとのものと、②年金収入のもの、があります。

(3) 慰謝料

死亡することによって生じる精神的苦痛を填補するものです。

3 損害額の算定基準など - 損害賠償の計算方法

次に、具体的な損害の額やその算定基準が問題となります。

(1) 積極損害

葬儀関係費が主なものです。

① 葬儀代

人は、誰でも交通事故に遭わなくてもいつかは死亡するので、葬儀代は誰もがいつか支出せざるを得ない費用です。その意味で、葬儀代は交通事故との因果関係(原因と結果の関係)がないようにも思えますが、現在では、葬儀代も一定額が損害として認められるという結論に揺るぎはありません。

そして、葬儀代の額ですが、「赤い本(裁判所基準)」では、「葬儀費用は原則として150万円。但し、これを下回る場合は、実際に支出した額。香典については損益相殺を行わず、香典返しは損害と認めない。」と記載されています。

他方、自賠責保険では、原則として60万円とされ、立証資料などにより60万円を超えることが明らかな場合は、100万円の範囲内で必要かつ妥当な実費として認められるとされています。

② その他

葬儀代、仏壇仏具購入費、墓碑建立費用、遺体搬送料、遺体処置費用などは、諸事情により、認められる余地があります。

(2) 将来の消極損害 - 逸失利益

ア 稼働による収入に関する逸失利益

(ア) 死亡逸失利益の重要性

死亡した被害者は、その後働いて得られるはずであった収入が得られなくなるわけですから、得られなくなった収入について逸失利益としての損害が発生しているといえます。そして、この逸失利益の賠償請求がいくら可能かということは、残された家族の生活にとってとても重要な事柄になってきます。

そこで、死亡逸失利益の算定方法が問題となってきます。

(イ) 死亡逸失利益の計算式

死亡逸失利益の計算式は、次のとおりです

基礎収入額 × (1 - 生活費控除率) × 就労可能年数に対応するライプニッツ係数

以下に、ご説明していきます。

① 基礎収入

死亡逸失利益は、死亡によって現実に得られなくなった収入を算定することになるので、その算定の前提となる収入をどう理解すべきかが問題となります。

この点、「赤い本(裁判所基準)」では、次のような趣旨が記載されています。

ⅰ 有職者

(ⅰ) 給与所得者

原則として事故前の収入を基礎として算出します。

ただし、例外として、現実の収入が、賃金センサスの平均額以下の場合であっても、平均賃金が得られる蓋然性があれば、賃金センサスの平均額とされます。

若年労働者(概ね30歳未満)の場合には、学生との均衡の点もあり、全年齢平均の賃金センサスを用いるのを原則とします。

(ⅱ) 事業所得者

自営業者、自由業者、農林水産業者などについては、申告所得を参考としますが、同申告額と実収入額が異なる場合には、立証があれば実収入額が基礎とされます。

所得が資本利得や家族の労働などの総体のうえで形成されている場合には、所得に対する本人の寄付部分の割合によって算定されます。

現実収入が平均賃金以下の場合には、平均賃金が得られる蓋然性があれば、男女別の賃金サンセスによるとされます。

現実収入の証明が困難なときは、各種統計資料による場合もあるとされます。

(ⅲ) 会社役員

会社役員の報酬については、労務提供の対価部分は逸失利益性が認められますが、利益配当の実質をもつ部分は逸失利益性は認められにくいとされます。

ⅱ 家事従事者

賃金サンセス第1巻第1表の産業計、企業規模計、学歴計、女性労働者の全年齢平均の賃金額を基礎とされます(最高裁昭和49年7月19日判決)

有職の主婦の場合、実収入が上記平均賃金以上のときは実収入により、平均賃金より下回るときは平均賃金により算定されます。家事労働分の加算は認めないのが一般的とされます

ⅲ 無職者

無職の人については、死亡したとしてもその時点では収入がないわけですから、将来も収入がないと考えれば死亡逸失利益は一切ないという風にも考えらえます。

しかし、交通事故時に収入がなかったとしても、その後収入が得られる可能性があれば、それについての死亡逸失利益を認めるのが妥当です。

そこで、次のように、無職者にも一定の条件の下で死亡逸失利益が認められています。

(ⅰ) 学生・生徒・幼児等

賃金センサス第1巻第1表の産業計、企業規模計、学歴計、男女別全年齢平均の賃金額を基礎とします。

なお、大学生になっていない者についても、大卒の賃金センサスが基礎収入と認められる場合があります。

ただし、大卒賃金センサスによる場合、就労の始期が遅れるため、全体として損害額が学歴計平均額を使用する場合と比べ減ることがあることに注意が必要です。

なお女子年少者の逸失利益については、女性労働者の全年齢平均ではなく、全労働者(男女計)の全年齢平均賃金で算定するのが一般的とされます。

(ⅱ) 高齢者・年金受給者など

就労の蓋然性があれば、賃金センサス第1巻第1表の産業計、企業規模計、学歴系、男女別、年齢別平均の賃金額を基礎とします。

ⅳ 失業者

労働能力及び労働意欲があり、就労の蓋然性があるものは認められるとされます。

再就職によって得られるであろう朱乳を基礎とすべきで、その場合特段の事情のない限り、失業前の収入を参考にするとされます。

但し、失業以前の収入が平均賃金以下の場合には、平均賃金が認められる蓋然性があれ場、男女別の賃金センサスによるとされます。

② 生活費控除率

死亡した人は、死亡することにより将来の収入などが得られなくなるのですが、同時に、将来支出しなければいけなかったはずの自分自身の生活費などの負担を免れるという側面もあり、この点を逸失利益の算定においても考慮しないといけません。なぜなら、生活費で支出してしまう分までも逸失利益として認めてしまうと、「将来の支出を免れる」分と、「逸失利益として賠償請求できる」分が重複し、いわば二重取りとなってしまうからです。

こうした点を考慮するための概念として用いられるのが生活費控除率です。すなわち、収入全体のうち、死亡した人自身の生活費で支出されるであろう割合を生活費控除率として控除し、その残りを現実に生じる逸失利益として算定することになります。

そして、その具体的な生活費控除率は、「赤い本(裁判所基準)」によると、次のとおりです。

a 一家の支柱

(a) 被扶養者一人の場合 40%

(b) 被扶養者二人以上の場合 30%

b 女性(主婦、独身、幼児などを含む) 30%

なお「女子年少者の逸失利益につき、全労働者(男女計)の全年齢平均賃金を基礎収入とする場合には、その生活費控除率を40~45%とするものが多い。」とされています。

c 男性(独身、幼児などを含む) 50%

d 兄弟姉妹のみが相続分のとき

「別途考慮する。」とされています。

e 年金部分

「年金部分についての生活費控除率は、通常より高くする例が多い。」とされています。

③ 就労可能年数

後遺症や死亡の際の逸失利益を算定する際、就労できる年数、つまり、就労可能年数を明らかする必要があります。

就労可能年数は、「就労の終期」から「就労の始期または死亡時の年齢」を控除することによって導かれます。

「就労可能年数」 = 「就労の始期」 - 「就労の始期 または 死亡時の年齢(のうち遅い方)」

そこで、就労の終期と就労の始期は、いつなのかという点が問題になってきます。

この点まず、就労の始期については、未就労者については、原則として18歳ですが、大学卒業を前提とする場合は大学卒業予定時の年齢とします。

次に、就労の終期は、原則として67歳ですが、67歳を超える者については、厚生労働省大臣官房統計情報部が発表する簡易生命表の平均余命の2分の1とされます。また、67歳までの年数が平均余命の2分の1より短くなる者については、平均余命の2分の1とされます。

④ 中間利息控除

稼働による収入は、生きていれば、本来は、毎月に一か月分ずつ受け取るもので、将来の分までをまとめて一括に受け取るものではありません。

しかし、死亡逸失利益として賠償を受けるときには、将来の分をまとめて一括に受け取ることになりますから、その分「前払い」をうけることになります。そして、「前払い」を受けた分は、その後、本来受け取るときまでに利息が発生し、その利息分は「もらいすぎ」になりますから、この「もらいすぎ」の利息分を控除する必要が出てきます。これを中間利息控除といいます。

この中間利息控除を実現するためには、就労可能年数に対応したライプニッツ係数を乗じる方法がとられます。

なお、ライプニッツ係数を導く際の利率については、民事法定利率である5%とされています(最高裁平成17年6月14日判決)。

ライプニッツ係数表は、こちらをご覧ください。 → ライプニッツ係数表

イ 年金などに関する逸失利益

年金給付とは、老齢・退職、死亡、障害(後遺障害)などを支払事由として、定期的かつ継続的に支給される給付をいいます。

年金給付主なものを挙げると、以下のとおりです。

老齢・退職時に支給後遺障害を理由として支給遺族に対して支給
国民年金老齢基礎年金障害基礎年金遺族基礎年金
厚生年金老齢厚生年金障害厚生年金遺族厚生年金
共済年金退職共済年金障害共済年金遺族共済年金

死亡した被害者が高齢者で年金などを受給していた場合や、受給は始まっていないのだけども受給資格を取得していた場合などには、死亡によってその年金等の受給権が消滅するので、全ての年金などについて後遺症逸失利益として認められるかにも思えます。

しかし、裁判例は、各年金給付の性質を検討し、逸失利益性があるかないかを判断しています。

その際の判断要素としては、次の要素があると思われます。

a 給付の目的が受給者のみの生活保障を目的としているか、受給者と生計を同一にする者の生活保障を目的としているか

b 保険料納付しているかどうか(保険料と給付との牽連性)

c 給付の確実性(受給権者の意思などにより受給権の帰趨が左右されるか)

そして、実際に逸失利益性が肯定された例と否定された例は、以下のとおりです。

〇 肯定例

恩給法に基づく普通恩給

共済組合法に基づく退職年金

国民年金法に基づく障害基礎年金 ただし、子と妻の加給分については否定。

厚生年金法に基づく障害厚生年金 ただし、子と妻の加給分については否定。

〇 否定例

遺族厚生年金

軍人恩給としての遺族扶助料戦没者などの妻に対する特別給付支給法に基づく特別支給金

3 慰謝料

死亡慰謝料については、「赤い本(裁判所基準)」では、次のようにされています。

一家の支柱  2800万円

母親、配偶者 2400万円

その他 2000万円~2200万円

なお、上記の基準は、具体的な斟酌事由により上限されるべきで、一応の目安を示したものにすぎないとされます。

また、上記の基準は慰謝料の総額であり、民法711条所定の者とそれに準じる者の分も含まれるとされます。

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当事務所は、交通事故の被害者側の損害賠償請求を最重点業務としています。これまで、多くの死亡事故や後遺症のある事故を解決してきました。担当してきた後遺症は、高次脳機能障害、遷延性意識障害(いわゆる「植物状態」)、CRPS、大動脈解離、脊柱や各関節の変形障害・運動障害、むち打ちなどの神経症状など、多種多様です。弁護士費用特約が使えます。

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